センター設立のねらい
データ科学の先進技術を結集し,ものづくりに革新をもたらす科学的手法を創出する.我が国の基幹産業を担うものづくりの諸分野は,今大きな変革期に直面しています.人口減少やグローバリゼーションによる産業構造の変化により,我が国の製造業は国際的優位性を急速に失いつつあります.さらに,米国マテリアルゲノムイニシアティブや独インダストリ4.0等,欧米・アジア諸国では,データ科学を中心に据えた「次世代のものづくり」を創出していこうという動きが活発化しています.今後益々激化する世界的パワーゲームに対抗するには,他の追従を許さない独創的イノベーションを起こしていく必要があります,このような中,個の力が切り拓くデータ科学は有効な対抗手段になります.統計数理研究所では,ものづくりを戦略目標とするデータ科学の研究拠点を設立します.機械学習,最適化,データ同化,ベイズ推論,材料インフォマティクス等,統計数理研究所が有するデータ科学の世界最高峰の知を結集し,産学の価値共創で次世代ものづくりの革新的手法を創出する.これが本センターのミッションです.キーワードは,「スマート化」と「創造的設計と製造」です.
データ科学によるスマートなものづくり
これまでの材料開発では,研究者の経験や勘に基づく材料設計,大規模シミュレーションと実験による物性評価,設計指針の見直しというサイクルが延々と繰り返され,一つの物質の発見から実用化までに膨大な時間と研究開発費が費やされてきました.これに対し,近年,実験やシミュレーションを大量データから導かれた統計モデルに代替させようという試みが行われています.これが実現すれば,超高速な物性評価試験を実施することができます.これまでは費用と時間の制約上,ごく少数の候補材料が評価対象でした.今後,データ科学によるスマートシミュレーションで大量の候補材料を高速にスクリーニングできる時代が来れば,多くの埋蔵物質が発掘されることが期待されます.ものづくりの様々な領域でこのようなアプローチを実装・実践し,研究開発期間の大幅な短縮と発見の機会費用の低下を実現する.これがデータ科学によるスマート化の基本コンセプトです.
創造的設計と製造のデータ科学
ものづくりで他の追従を許さないレベルの革新を起こす.一般的には,データ科学単独でこれを実現することは不可能です.データ科学の解析手法の多くは,基本的に内挿的予測を行うためのものです.データ科学では,今手元にあるデータと予測対象のデータの類似性に基づき予測を行います.例えば,材料の物性評価では,物質の構造が近ければ物性も近いという原理に則って予測を行います.しかしながら,革新的材料は一般的に未踏の領域に存在するため,その周辺にはデータは存在しません.この限界を突破するには,実験や理論とデータ科学の解析手法の融合が必要です.すなわち,実験やシミュレーションを用いて,実験計画法に則った合理的デザインのもとデータを追加しながら,統計モデルの予測可能領域を段階的に拡大していくというアプローチです.これまで我々は,物質・材料科学の分野でデータ科学による外挿的予測手法を開発し,産学連携で革新的機能材料の発見を目指してきました.次のステップは,ものづくりの様々な領域で創造的設計と製造のデータ科学を実践していくことです.
設置時期
平成29年7月1日